年度末はいじめ重大事態報告書や関係した教職員の処分が出されるタイミング。判断に長くかかるケースも。静岡県湖西市の場合
年度末は、いじめ重大事態の調査報告書が公表されることが多い。予算上、年度内に区切りをつける必要性があることに加え、当事者が進級・卒業するまでに解決したいという関係者の思いが重なる時期でもある。また、報告書を踏まえ、関係した教職員や教育委員会関係者の懲戒処分が発表されることもある。しかし、被害当事者からすれば、それで終わりではない。いじめの後遺症としてPTSDや適応障害、鬱などがある場合でも、卒業を理由にケアを打ち切られることもあるからだ。
こうした調査報告書が公表され、懲戒処分も年度内で決着すれば分かりやすいが、自治体や事案によっては判断が難航する場合もある。
処分までいじめ発生から7年かかった静岡県湖西市
静岡県湖西市のケースでは、2019年度に市立中学校に通っていた元女子生徒(当時2年生)が卓球部で集団で無視されるといういじめを受け、不登校になった。23年5月11日に調査報告書が出された。「いじめに該当する行為があった」「不登校との因果関係がある」と認定。「遅くとも19年11月には重大事態と認め、調査委を設置すべきだった」と指摘した。
そして、処分が決まったのは2025年度末となった。当時の校長を「厳重注意相当」とした。つまり懲戒処分には当たらないという判断だ。3月27日付で、元生徒と保護者に通知された。実にいじめ発生から処分判断までに7年かかった。
公立学校の懲戒処分は、政令指定都市を除くと、原則として県教委が判断する。「静岡県教職員懲戒処分等の基準」によると、処分は「免職」と「停職」、「減給」、「戒告」、「訓告等」がある。「いじめの助長や放置などの問題」は、「児童生徒への不適切な言動等」に含まれている。そのため、県教委は、どの処分にあたるのか検討したが、最終的には処分せず、湖西市教委の判断を委ねた。
「23年5月に報告書が出た後、教育長から謝罪を受けました。その場で、関係した教職員の処分や謝罪はどうなるのか?を尋ねました。すると、『県教委の判断を待ちます』と言っていました」(母親、以下同じ)

「静岡県教職員懲戒処分等の基準」より。
元生徒側は、影山剛士市長(当時)に対して、いじめ予防と二次被害が起きないために検証委員会の設置を求め、市長も検証委員会の設置を約束していた。しかし、25年8月、田内浩之市長と面談し、保護者に「検証も再調査もしない」旨を伝えた。市長は記者に対して「(検証や再調査の)法的な担保が欲しいと思っている。それが実現しなかった」と述べた。
県教委は処分せず、市教委の判断へ
また、県教委は25年10月、校長や教職員の処分はしないとした。
「ただ、処分が全くないというのではなく、市教委の判断に委ねることになったのです。県教委から市教委への指導助言があり、処分の内容は26年2月までに回答することになっていました。しかし、2月の最終日の夜、市教委からメールで、処分の判断について『間に合いませんでした』と届きました。そのため、3月末まで、となっていたのです」
通知は、日付の前日、26日、郵送で届いた。内容は、校長には「厳重注意相当」とし、懲戒処分には至らなかった。また、校長はすでに退職済みで、指導できないというもの。ただ、市教育長は3月17日、「厳重注意相当」であることを校長に口頭で伝達した。

いじめで不登校になった元生徒(保護者提供)
校長以外の教職員に対しては、当時の対応が教職員個人の判断ではなく、組織的な対応であったために、懲戒処分の対象ではないともした。そのことは3月23日に報告した。
また、謝罪については、すでに校長が退職しているため、市教委の権限が及ばず、校長以外の教職員も謝罪は考えていないともした。
「厳重注意相当」で懲戒処分なし。理由は伝えられず
校長が「厳重注意相当」で、他の教職員が処分対象ではない理由は特に文書にはない。母親は「理由は教えてもらっていません。(25年10月、三島市内で)柿を三個盗んだ教員は懲戒免職になりました。しかし、うちの子の件では、その教員の処分よりも軽いと思うと、ひっかかります。私は、誰か一人の先生でもいいから、『助けられなくてごめんね』って言ってくれたら報われるなって思っていたんですが、『謝罪はしません』と宣言されてしまいました」と話す。
懲戒処分の検討にあたって懸念する部分もあった。県教委に対しては、いじめとその対応についての時系列表を送っていたが、市教委には送っていないということだ。
「市教委は何を一次資料として検討したのでしょうか。私たちは、湖西市から呼ばれて聞き取りされているわけでもありません。それにどうして判断が遅れたのでしょうか」
一方、元生徒側は、報告書を受けて再発防止策を要請した。市側は、26年度から5年かけて全教員に対して研修を行うとしているという。それに対して母親は残念がる。
「市内の中学校は5校です。ということは、1年ごとに1校ずつということなのでしょうか。5年後には異動をして市内からいなくなる教員も出てきます。体育館などに集めて一斉にすれば全員に研修ができるのに…」
<時系列>
【2019年】
5月2日 部活動で気がついたら1人になっている。集団無視が始まる。
5月18日 部活動保護者会。顧問に「同級生と何かあるようだ。様子を見てもらいたい」とお願いする。
5月28日 生徒指導部会で「いじめ案件として対応」と確認。
6月6日 母親がスクールカウンセラーと面談。「これはいじめです。あまりにも先生の認識が違いすぎるから、私から学校に話をして良いですか?」と言われる。翌日、担任から電話。「もう一度話し合いたい」
6月14日 学校に提出する日誌で、女子生徒本人も「部活で一人になる」と書く。
9月4日 学年主任と面談。「表立ったほんとのいじめではないから見守るしかない」と言われる。
11月 校長(直轄)案件とされる。
11月25日から卒業まで出席できず。欠席30日に。
11月27日 「いじめによる鬱」と診断される。一年次の担任に伝える。
11月28日 法務局に電話。
【2020年】
3月19日 学校内で聞き取り調査
10月14日 法務局「人権審判の事実があったとまでは判断できない。人権審判の不明確」
【2021年】
3月18日 校長は、上記調査をもとに「いじめはなかった」と保護者へ回答(内容証明)
4月 市いじめ問題調査委員会を設置
8月4日 市いじめ問題調査委員会規則を制定
11月16日 第一回調査委員会開催
【2023年】
5月11日 調査報告書を教育長に提出。
12月22日 市は、県外の第三者による検証委員会を設置する方針を示す
【2024年】
9月25日 こども家庭庁に「再調査に当たることは行わない」と伝える
10月15日 いじめ専門の相談窓口設置
【2025年】
8月14日 市側が保護者に「検証委も再調査も検証もしない」と伝える
【2026年】
3月27日 市教委は、校長(当時)は「厳重注意相当」、教職員(いずれも当時)は処分なし、とした。
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