横浜・女子中学生のいじめ自殺報告書。代理人弁護士に聞く…

 2020年3月、横浜市の中学校に通っていた女子生徒が自殺した。第三者委員会は、いじめを認定し、自殺との事実的因果関係を認めた。しかし、学校が、女子生徒の自殺後に行った「基本調査」からは「いじめ」の文言が削除されていた。いじめを隠蔽したとの批判も相次いだ。そこで、代理人弁護士にインタビューを試みた。

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渋井哲也 2024.07.01
誰でも

 2020年3月、横浜市の中学校に通っていた女子生徒が自殺した。市の第三者委員会は、「行為者の行為そのものの性質から、一般的に考えて心身の苦痛を感じる程度の行為」などとして、女子生徒へのいじめを認定した。その上で、自殺との因果関係があったことを認めた。この件では、市議会でも問題となり、市教委による「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」(文科省作成、改訂版)による調査が問題視された。基本調査の段階で「いじめ」という文言が削除されたためだ。そのため、遺族は、学校・市教委に不信感を持つことになった。

 調査結果(公表版)によると、以下の「からかい行為」がいじめと認定された。

①     クラスメートの男子生徒複数名と、他の生徒複数名が加わり、女子生徒の後ろでこそこそとニックネームを行ったり、休み時間に廊下ですれ違った際に、女子生徒のニックネームを大声で叫んだりした
②     女子生徒が泊まると、生徒複数名が一緒に止まったり、女子生徒がゴミをしてに行くと、「捨てに行きました」などと行動を実況した
③     女子生徒が授業中、教師に当てられて発言した際、笑いを誘う意図がないにもかかわらず、男子生徒複数名がくすくすと笑ったこと

などを女子生徒への「からかい」とした。

 遺族の代理人、石田達也弁護士に話を聞いた。

石田達也弁護士(撮影:渋井哲也)

石田達也弁護士(撮影:渋井哲也)

ーー報告書としての受け止めは?

 報告書は、ご遺族としては満足、納得して受け止めています。事実認定では、かなり苦労した痕跡もありますが、一見ありふれた「いじめ」を、孤立という観点からしっかり分析し、自死との関連性を明確にした意義は大きい。いじめが外形的にやんだ(と思われる)時期から自死までの期間が6ヶ月近くあります。時間的に間隔ができると因果関係を否定的にとらえがちな三者委が多い中で、心痛の継続を見抜き、時間がたった事案でも経験則に照らし因果関係が認められる、というロジックを組み立てた点は優れたポイントだと理解しています。

 ――表紙に「遺書」と大きく書いているノートがありますね。会見では、「迷惑をかけてしまった皆さん、本当にごめんなさい。なぜ死んだかというと、いじめが辛かったからです。世の中の人たちにはいじめと判断してもらえないようなことだと思います。それでも私には辛かった」という部分を読み上げましたね。

 あのノートは、亡くなった後に親御さんが見つけたものです。部屋の靴絵の上に置いてありました。「遺書」として書いてあるのは1ページ分です。見開きの片ページ分にびっしりと書いてありましたね。覚悟の上での文章で、読んだときはショックが大きかったです。具体的な内容すぎて、会見で読み上げるときには、どこまで出すべきか悩みました。でも、最後のメッセージだし、ちゃんと伝えてあげなきゃとも思いました。ただ、ご遺族からも、学校現場や子どもたちの影響もあるとのリクエストもあり、ギリギリのバランスでやりました。

女子生徒が「遺書」とノートの表紙に書いた(提供:代理人弁護士)

女子生徒が「遺書」とノートの表紙に書いた(提供:代理人弁護士)

「遺書」ではない部分には、日記的な内容もあります。11月ぐらいからたわいもないことを書いていて、途中で下価格なっています。「遺書」はノートの真ん中付近です。自然に開くと出てくるページです。表紙に「遺書」と書いたのは、遺書の内容を書くときではないでしょうか。手元にたまたまあったノートだと思います。

――児童生徒が自殺で死亡すると、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」(改訂版)に基づいて、学校がその時点で保有している情報をまとめて「基本調査」をすることになっています。もし、そこで、いじめもしくはいじめの疑いがある場合は、「いじめ防止対策推進法」による「重大事態」の調査になります。しかし、基本調査では、「いじめ」の文言はありませんでした。

 謎の一つです。最初の案では書いてあったんですよ。校長とお父さんとのやりとりは結構濃密でした。事前に何回かやりとりしている中で、学校側は「いじめです」と言っているんです。「いじめという前提で見ています」「いじめとして調べています」と。しかし、結果として、「いじめ」という言葉が抜け落ちました。そこは論理的に破綻しています。

――公表版では3つの「からかい行為」が指摘されていますが、他に検討する行為はなかったのですか?

 もちろん、これですべておしまい、という意味ではないです。「公表版」の「第3 答申(調査結果)の「体育の球技の授業中における孤立感」の部分にもありますが、女子生徒が失敗したときに「またかよ」という雰囲気を感じることを相談しています。ここは調査委員会で具体的な事実は明らかにできていません。ここもいじめではないかという目で調べてほしいとは言いました。しかし、かなり時間がたってしまったことと、体育の授業中なので、言葉掛けが人によっては「パス」だし、人によっては「エール」のように聞こえる。それがごちゃまぜになっていたぽくって。その言葉がどうも思い出せないというのがあるようです。「またかよ」というリアクションをされたのがすごく傷ついたということが触れられているんですけど、誰がどんな形で、というのが特定しきれませんでした。

――でも、担任は7月に相談を受けている。担任は、いじめとの認識があるのでは?「担任は、7月、本件生徒から、複数の男子生徒によるいじめの相談を受け、翌日、本件生徒が名前を挙げた複数の男子生徒を集め、一応の事実確認をしている」とあります。

 そこが微妙なところです。担任は事実関係を把握しているんですよ。その7月の時点で。子どもたちからも聞き取ったとなっていますから。そして、一応、指導したというのがあります。しかし、感情任せです。感情的な指導は、指導を受ける側の言い分に耳を傾ける姿勢を忘れさせることがあり、適切な指導につながらないことが多い」「10 月に生徒に対して指導した際も、担任は、生徒本人の思いに十分に耳を傾けないまま、感情的な厳しい口調での指導を行い、生徒にとって、納得感のない指導になっていた」とあります。確認はしているので、ここで「いじめ」という認知をしなきゃいけなかったんです。しかし、「いじめ」という言葉で認識しない。そこが抜けています。

――担任だけでなく、組織的対応ができていない?

もうここで抱え込みが起きています。本当は組織的に学校として、チーム学校として、「いじめ防止対策委員会」にあげるべきだった。それをしないで、直接、女子生徒をからかったとされる5人の生徒に対して指導して、おしまいになってしまった。ここで抱え込みが起きたな、というのが僕の受け止めなんです。瞬間的には良かったんです。表面上は治った。一応、そういう流れになっています。

――文科省は「いじめの解消」の目安について、少なくとも、(1)いじめの行為が止んでいること(少なくとも3か月間)、(2)被害を受けた子供が心身の苦痛を感じていないこと、としています。学校がそれを参考にしているんですか?

 全くそんな形跡はないです。それも問題ですが、その後ですよね。そこから長期不登校になるわけですから。

――いじめの中でも、「暴力行為」はない。そのため、担任や学校は深刻じゃないと感じていたんでしょうか?

 軽く見ている節はありますね。

――暴力的ないじめでなくても、暴力的にいじめを受けたと同様に、いじめられた側がショックを受けて、仮に自殺に至らないまでも不登校になったり、うつ状態になったりするケースは他にもあると思いますが、そこまで想像はしていない?

 全然そういう痕跡がありません。悩んですらいないですね。これが分水嶺になったのではないか。指導をしたということで「解決した」という頭になっているんですよ。それが1つの原因かな。暴力を伴わないために、バイアスになってしまって。

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