「なんで邪魔するんだよ!」入念な死の計画をしていた少年。記者に通報され怒り 8月にネット心中にした少年の背景①

 生きづらさや自傷行為、自殺、依存症などをテーマに取材をしていると、取材後に亡くなってしまう人が時折いる。8月ということで思い出した人物がいる。インターネットの自殺系サイトで、心中相手を探していた義紀(仮名、18)だ。彼とは一度だけ会っただけが、相当に入念な計画をしていたことがわかった。なぜ、そこまでの想いに至ったのか。彼を偲ぶために、当時の取材を振り返る。
渋井哲也 2024.08.01
誰でも

「相手と約束」があれば・・・

 <一緒に死ねる人いませんか?連絡ください>

 中国地方に住む高校生、義紀は2003年5月ごろから、複数の「自殺系サイト」の掲示板で、心中相手を呼びかけていた。その時に、切迫した「死」への願望があったわけではないという。以前から「死にたい」と思う気持ちはあったものの、「今すぐに」とまでは思っていなかった、とのことだ。しかし、「相手と約束」があれば、自殺ができるとも考えていた。

 そのため、心中相手募集に、何度か応じたことがあった。しかし、返信が一度もなかった。

「もうその人は死んでしまったのかな?」

反応がないからといって、呼びかけ人が死んだかどうかはわからないが、応じるよりも、募集した方が効率がいいと考えた。

 呼びかけの反応があった。20代後半の男性Aだった。同じ県内に住んでいることから、実際に会うことになった。メールでもそうだが、実際の心中方法について話し合った。男性Aは「首つりがいいんじゃないかな?」と言うと、義紀は「練炭自殺がいい」と、あくまで、連鎖自殺となっている手段にこだわった。

 この計画では、もう1人加わる予定があった。男性が別の掲示板で知り合った近県の女性B(16)も男性を介して参加するはずであった。しかし、その打ち合わせ以後、男性Aからの連絡が途絶えた。

会うたびに打ち合わせ。車の免許を取りに行く

 さらに義紀は掲示板で呼びかけることにした。すると、同じ県内で、統合失調症と思われる20代前半の男性Cからメールがきた。一ヶ月ほどメール交換をした後、会うことになった。義紀はその打ち合わせでも、車内での練炭自殺にこだわっていた。

 義紀と男性Cは免許を持っていないために、話し合いの結果、義紀が車の免許を取ることになった。睡眠薬はすでに入手していた。同年4月から精神科に通い、処方されていたのだ。眠れないわけではないのに、不眠を装ったのだ。

 睡眠薬と車の免許。それは義紀の役割となった。そして、関西地方に住む女性D(32)も加わった。3人での打ち合わせをした後、男性Cは「やっぱり、死にたくない」と言って、抜けた。再募集すると、さらに別の20代中盤の男性Eが加わるが、途中で脱落。結局は女性Dとの2人になる。ただ、女性Dが別の60代の女性Fと知り合い、3人で決行することにした。

記者に通報され「なんで邪魔するんだよ!」と怒り

 こうしたやり取りをする過程で、義紀は掲示板を通じて新聞記者から取材を受けた。書き込みを見て、記者が義紀にメールを出したのだ。義紀は、取材を受けた。

 「どうせ死ぬのなら、大げさに取り上げてもらいたい」

 との気持ちがあったからだ。そして、3人での約束の日が近付く。前日、義紀は記者にメールを出した。

 <これから決行します>

 記者は慌てた。メールのやりとりは本名でしたいたが、義紀は、住所等はばれないと思っていた。しかし記者は特定することができ、地元の警察署に通報。事前に「ネット心中」を食い止めた。義紀は記者に対して怒りを露にした。

 「なんで邪魔するんだよ!」

 このやりとりを知った私は、義紀と連絡をとり、新宿で会うことになった。義紀が最後の旅行として東京へ来るという。その帰りに新宿から高速バスで帰るために、新宿西口の喫茶店で会うことにした。(続く)

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