「認めないなら反論を」。神戸市いじめ問題で市議会に陳情。第三者委が「隠蔽」と結論づけたが、市教委は認めない状態が続く
約20年前、神戸市内で起きた小学5年の男子児童(当時)が同級生から暴行を受けたり、金銭を要求されるという事件があった。被害児童は、加害者の同級生とその保護者を相手に損害賠償を求めて提訴した。民事裁判で裁判所は訴えを認めた。また、23年に「第三者調査委員会」は、隠蔽の痕跡を指摘した。しかし、市教委は「隠蔽」との結論は受け入れていない。そのため、第三者委の結論を「認めるか、認めないなら、根拠を示して反論をすべき」とする陳情が提出され、2月18日に、市議会教育こども委員会で取り上げられた。
市教委にいじめ隠蔽を認めるように再度陳情
今回提出する陳情は、2023年11月に採択された陳情事項を「誠実に実行せよ」と督促する異例の内容だ。提出したのは、学校事件事故の被害者遺族の会の代表。当時、市議会は、いじめ恐喝事件を市教委が隠蔽したとする調査報告書の内容を認めた。つまり、市教委は「故意」の虚偽答弁を行った、としたのだ。しかし、市教委はその後、報告書に基づく実質的な対応をせず、不適切対応を続け、謝罪することもなかった。
「採択から2年が経過しても実質的な対応がなく、節目だと感じたため、再び陳情をしました。教育委員会は『(第三者委の報告書を)重く受け止める』と言いながら、肝心の報告書の内容を認めていない。認めないなら根拠を示せと迫っても、我々はそういう立場にないとはぐらかす。兵庫県知事と同じで、言葉遊びの平行線です。教育委員会が道義的にきちんと対応するよう求めたい」(被害者の父親)

取材を受ける被害者の父親(撮影:渋井哲也)
隠蔽した「いじめ恐喝事件」とは
隠蔽した「いじめ恐喝事件」とは何だったのか。被害児童の父親や資料によると、2005年4月〜2006年2月、男子児童は「きしょい」「うざい」「死ね」「消えろ」などと暴言を言われていた。また、〝K―1ごっこ〟と称して、暴力も受けていた。ものを隠されたりした。
さらには金銭の恐喝にあった。奪われた金額は、総額で50万円ほど(学校調査では約20万円)だった。当時の校長は、被害者側にはいじめと認めた一方、加害者側には「いじめではない」と二枚舌を使っていた。そのため、男子児童へのいじめは悪化していった。
学校はのちに市教委に対し「いじめ恐喝事件」として報告した。ただ、市教委の公式文書では「学校が被害児童から十分な聞き取りができていない」等と記載されていた。市教委は、被害児童が加害者側に対して起こした裁判でも、「被害児童の保護者から聞き取りを拒まれたため実施できなかった」と虚偽の説明をしていた。この食い違いは、隠蔽の疑惑につながる。
裁判所には虚偽文書。議会では虚偽答弁
被害児童の父親は21年、個人情報開示請求をした。市教委は当初は「資料はない」としていたが、最終的にダンボール4箱分の資料が見つかり、開示された。資料には、学校の聞き取り記録や内部メモが含まれ、時系列で事件の詳細が浮かび上がった。その中には、内部告発に関する記録もあり、市教委の隠蔽体質が明らかになった。
加害児童らとの民事裁判では、裁判所が市教委にいじめについての見解を問い合わせた。そのとき、市教委は「被害児童の保護者から直接の聞き取りを拒まれたために、直接の聞き取りができていない」と回答している。しかし、実際には16回、聞き取りが行われた。
実は、いじめ恐喝事件の発覚から5年後の2011年9月、市議会議員や記者クラブ宛に「内部告発」という文書が送られてきた。その文書はA4サイズで2ページ。文書の宛名は「神戸市教育委員会 職員」で、「隠蔽に関わった一人」と書かれていた。しかし、実名や部署名が書かれていなかった。当時、男子児童の「いじめ恐喝事件」についての調査に関する陳情が市議会に出されていた。文書では「被害者が訴えている通り、教育委員会が裁判所へ虚偽文書を提出したこと、さらには議会で虚偽答弁を行ったことは事実です」と書かれていた。
市教委「根拠に乏しい」が、具体的な指摘はなし
市教委は「報告書は根拠に乏しい」とする教育長名の報告書を第三者委に提出した。教育長は市議会や記者会見でも「隠蔽したと指摘されても仕方がない不適切な対応だった」「などと言及したものの、隠蔽したことを認めるかどうかは曖昧な態度だった。そのため、第三者委の報告書にもとづいた関係職員の処分は行われなかった。2024年12月、市教委は当時の担任と校長に口頭注意しただけで、教育長や職員への懲戒処分は一切行わなかった。
市教委は以前、筆者の取材に「(調査報告書の)結果には最大限尊重させていただく。改めるところは改めて、再発防止や低減はしっかり受け止めて対応していきたい。精査をしたというか、真摯に受け止めさせていただいている。もっとこうすればよかったというところもあるかと思いますので、その点も改めていきたいと考えているという認識です」と回答した。
一方、 被害者の父親によると、文科省は、父親とは4回、神戸市教委とは少なくとも5回の協議を行ったが、解決には至っていないとの認識だ。その上で、「文科省に強制力がない以上、地方の教育委員会の裁量に委ねられる」と失望する。
市旅費条例にもとづく支払いをせよと。
また、陳情事項の中には、神戸市旅費条例に基づく旅費の支払いをするように求めている。市は、被害者の保護者には支払済みとしている。
「市条例では、招集された関係者には旅費が支払われなければなりません。当時は県外に住んでいたのですが、市教委は支払いを拒否していました。最終的には支払われましたが、被害者保護者のみに支払いを求めているわけではない。他の事案に関する調査では支払っている形跡がない。すべての調査委で、条例に基づいての支払いを求めています。教職員は全員、わずかでも条例に基づいて支給されています。これでは不公平ですし、道義的に許されるのでしょうか」(被害者の父親)
市教委の組織再生を。いじめ問題は「寝屋川方式」に
陳情では、教育委員会の組織再生を願っている。
「認めてしまえば不法行為となり、懲戒処分や刑事告訴の対象になる。だから彼らは絶対に認められない。しかし、過去の過ちを認めない組織に改革など不可能です。いじめ防止のための改革としては、市長部局が主導する、大阪府寝屋川市のモデルに注目しています。教育内容の専門性については学校や市教委を尊重しつつ、『教育環境』の整備として、学校を作るかどうかと同じように、いじめのない環境にする責任が首長にあるという論理です」
寝屋川市では、教育的な指導による人間関係を再構築する「教育的アプローチ」を学校や市教委が「担うほか、いじめを人権問題として捉え、いじめを即時呈する「行政的アプローチ」を市長部局の監察課が行うことになっている。また、賠償請求等の民事訴訟や刑事告訴という「法的アプローチ」もあるが、市としては弁護士費用を補助する。
こども家庭庁は、学校外からのいじめ解消のアプチーチを取り組む。北海道旭川市、千葉県松戸市、三重県伊勢市、大阪府堺市、同八尾市、福岡県、熊本県熊本市などが取り組んでいる。来年度から東京都立川市でも「いじめ監察課」を新設する。被害者の父親は、神戸市でも組織改革を望んでいる。
<時系列>
【2005年】
4月25日 いじめの始まり
【2006年】
2月4日 いじめ発覚
2月10日 学年集会
2月14日 担任がいじめの事実を父親に説明
2月22日 校長・教頭がいじめの事実を両親に説明
2月28日 垂水警察署に被害届を出す。
3月1日 校長が市教委にいじめの報告書を提出
4月 転校
5月30日 教頭がいじめの再調査実施
【2007年】
9月11日 加害者3人を神戸地裁へ提訴
【2008年】
2月20日 市教委が神戸地裁に虚偽文書を提出。
【2009年】
6月26日 地裁判決。原告勝訴。
12月18日 高裁判決。原告勝訴。
【2011年】
3月15日 神戸市議会に陳情。
【2019年】
11月29日 22本目の陳情が採択
【2020年】
2月1日 第三者委員会の発足が決定
【2023年】
5月11日 「調査報告書」が公表される。
6月12日 教育長、報告書を認めないと宣言
11月30日 市議会、調査報告書を認めるように求める陳情を採択。
【2024年】
2月1日 市長へ要望書提出
【2025年】
1月〜4月 文科省が神戸市教委に指導。市教委は指導に従わない。
【2026年】
2月 報告書の内容を認めるように再度、陳情をする。
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