江東区私立幼稚園の事故。園児が左上腕部骨折で2度の手術。特別検査等を求める陳情。区議会でまたもや継続審査に!区長にも公約通りの対応を求める。

 江東区内の私立幼稚園に通う園児Xちゃん(当時6歳、23年3月卒園)が、園内で遊んでいたとき、倒れてきた絨毯(じゅうたん)の下敷きになり、左上腕部を骨折した。東京都では私立でも特別区が幼稚園事務を担当している。そのため、特別検査実施と第三者調査委員会の設置を区議会に陳情しているが、再び、継続審査となった。そのため、保護者は区長にも対応を求めた。
渋井哲也 2025.03.14
誰でも

 「私は、江東区の要綱と国の指針に従って、保育事故が起きた際の標準的な対応を求めているだけです。それが通らないのが江東区。保育事故は、危機管理や子どもの人権の問題として早急に対応するべきです。これは議員が解決するのか、区長が解決するのか」(母親)

特別検査と第三者委員会を求めた陳情は再び継続審査へ

 江東区内の私立幼稚園に通う園児Xちゃん(当時6歳、23年3月卒園)が、保育室で遊んでいたとき、倒れてきた絨毯(じゅうたん、長さ160cm、重さ11kg)の下敷きになり、左上腕部が骨折し、二度、手術した。

 「絨毯は、日常的に転倒防止のための措置がなく、保育室内で丸めて立てかけられ、ずさんな安全管理が招いた事故でした。事故後の園と区の対応は、まったく納得いく内容ではなかったです」(母親)

 保護者が区教委に対し、事故に関する特別検査と第三者調査委員会の設置を求めた。しかし、対応されることはなかった。Xちゃんの保護者は、江東区議会に特別検査の実施と第三者調査委員会設置を求める陳情を出した。24年6月、区議会文教委員会は継続審議となっていた。また、25年3月の同委員会で再び、継続審議となった。

 そのため、保護者は大久保朋果区長にも対応を求めるように要請をした。

 委員会を傍聴していた母親は、審議を聞き、以下のような感想を持った。

 「初回の審議から傍聴していますが、区が陳情に応じないのは、制度や物理的なものではなく、区の考えとして応じない、ということが分かりました。保育事故対応は、危機管理や子どもの人権の問題からも長引いて良い議論ではないと思いますが、『区が動かないなら、議会が採択するべき』という動きは残念ながらありませんでした。ですから、継続審議です。

事故からすでに2年以上経過していますが、先日、園と区が考えたという事故報告書の訂正版が区からメールで送られて来ました。文教委員会の委員にも共有しました。今回の事故は、ずさんな安全管理による明らかな人災ですが、今後の改善策は『長さ約160cm、重さ約11kgの絨毯は今後使用しない』とありました。

なぜ、絨毯のせいなんでしょうね。この重量の絨毯を丸めて立て掛けることは先生にしか出来ません。 この絨毯は日常的に子どもたちの読み聞かせの時などに使っていたそうなので、絨毯の重さや硬さを実感する機会は日常的にあったわけです。立て掛ければ、グラグラするのも分かっていたでしょう。でも、園はこの事故が起きるまで絨毯を立て掛けることを止めなかった。園と区の双方が第三者委員会の設置を不要としていますが、皮肉にもこれで必要性がはっきりしたと思います。

一体、いつまで何を審議するのでしょうか。未だに納得できる事故調査がされていない被害者の人権という観点からも、もっと考えを深めて欲しいです。そして、この陳情を採択したところで、一切何のデメリットもないはずです」

立てかけられていた絨毯が転倒し、骨折事故

 どんな事故だったのか。

 事故報告書や母親の証言によると、2022年10月7日10時45分ごろ、自由遊びをしていた。10時50分ごろ、教室の角に、ままごと遊び6人程度の園児が集まっていた。その箇所に、籠に入った絨毯(11キロ、160センチ)が立てかけられていた。その付近で遊んでいた他の園児が接触した。そのため、絨毯が転倒した。近くで座ってままごとをしてたXちゃんの左肩にあたり、衝撃で骨折した。

 2度の手術を経て、リハビリを含めた完治まで約1年10ヶ月を要した。園長は「予見できない事故」と保護者に説明した。事故発生当初、事故の全体像を理解できない保護者は園長の話を受け入れたが、徐々に「予見できる事故」と理解する。

 園は事故報告書を区に提出した。しかし、事実と異なる内容で保護者に無断で提出していた。

 「事故報告書には、『絨毯を立てかけている保育室の角は、普段遊ばない場所であった』と書かれていました。しかし、実際には絨毯は子どもたちの遊び場であるおままごとコーナー横に置かれて、いつでも子どもたちが触れられるところにありました。園児が保育室の角で遊んでいたのを先生は知っていましたが、特に注意はしていません

さらに、『記載内容について保護者の了承を得た後に、各自治体へ報告してください』とありました。しかし報告書は保護者に無断で出されました。理不尽な事故で心身の苦しみを味わった娘の扱いに、怒りが抑えきれませんでした」(母親、以下、同じ)

 さらに続ける。

 「事故後に判明したのは、園がずさんな安全管理の結果、子どもに重大な被害を与えておきながら、区が特別検査を実施していなかったのです。さらには、私がネットで調べて辿り着いた国の事故対応マニュアルには事故発生時の自治体の役割が明示されていますが、区は全く何もしていなかったんです。区は事態を悪化させた当事者ともいえます。

事故対応マニュアル通りに区が動いていれば、すぐに特別検査を実施して区民にも事故発生と区の対応を報告し、園に第三者委員会の設置を指示する、そして被害者に納得いく調査結果を出させる、有識者から再発防止策を得る、という対応になっていたはずです。今回、私たちは事故被害者として自治体対応に守られることはありませでした。」

私学の幼稚園でも、東京都の場合は、特別区が担当

 幼稚園での事故は、文科省が定める「学校事故対応の指針」(2016年3月、24年5月以降は改訂版)がある。死亡又は重篤な事故の場合、学校(幼稚園を含む)の設置者に報告をする。幼稚園による基本調査は3日以内を目処に終了させる。外部の専門家が参画する詳細調査をするかの判断は学校設置者だが、保護者の意向を踏まえる。

「今回の事故に関しては、保護者の意向のほか、安全管理体制に十分でない点など同指針に定める詳細調査へ移行すべきとされる要件に該当していると思います」

 私立の場合、都道府県等担当課に報告する。東京都の場合は私学行政課があるが、99年以降、特例条例によって特別区が幼稚園事務を担当することになっている。また、幼稚園の場合、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」も参考にすることになる。

 「私は、私立幼稚園ではなく区に対して詳細調査(第三者委員会)を求めていますが、ガイドライン上では死亡・意識不明のほか、自治体の判断によって私立幼稚園の事故の詳細調査を自治体側で設置することに制限はないのです」

私立でも幼稚園事務を担当する江東区教育委員会

私立でも幼稚園事務を担当する江東区教育委員会

 事故から半年後、警察に被害届を出した。

 「園を信じて被害届を出すのを悩んでいたこともあり、事故からタイムラグがありました。警察が立ち入りをしたのは翌年6月。以降、現在も警察は任意の捜査を続けています」

 母親がネットで調べていると、鳥取県の私立幼稚園で起きた熱傷事故に関して、県が第三者委員会を設置していたことを知った。保護者は、この事例を踏まえてさらに第三者委員会の必要性への考えを強くした。

 「保育事故の第三者委員会は死亡・意識不明に限定されません。国の指針に従って、起きた問題に応じて詳細な調査をする必要性があると思います。安全に教育を受ける権利を持つ子どもたちが、理不尽にも火傷や骨折の被害にあったならば、危機管理上の問題や人権の問題からも調査が必要だと思います」

検査実施要綱」によると、検査は2種類ある。「一般検査」は、基準に基づいて行うものだ。もう一つは「特別検査」だ。法や条例に違反など当該施設の運営等に重大な支障を及ぼしている、あるいは、一般検査で施設に対し指摘した事項について改善されていないーなどと、区長が認めるとき。また、施設が、正当な理由なく一般検査を拒否したとき、だ。

 23年3月、保護者は、区教委に、「重大な事故が起きたにも関わらず、特別検査を行わなかった」として、資料とともに、特別検査の実施と第三者委員会の設置を求めた。その後、区教委は事故発生から1年2ヶ月が経過した23年12月、園側に対して、一般検査を行った。

 保護者は「特別検査」が行われるのを期待したが、「一般検査」だけ。それによると、「保育室や廊下の収納ボックスや棚など転倒の恐れがある備品に対して、固定したり、高さを下げたりするなど転倒防止の対策を講じてください」などと助言されていた。しかし、絨毯転倒事故がなぜ起きたのか、という調査報告はなされていない。

 傍聴のほか区教委と面談した母親の証言によると、23年12月に特別検査を行わなかったのは、園は絨毯の撤去を行い、対策として朝礼・終礼で事故防止の啓発をしているため、一般検査の時点では、園は要綱に定められた運営に重大な支障を及ぼしていると区長が認める『とき』ではなかったとして、特別検査を行う根拠が無くなったことを理由にしているという。

「人災であるのに、特別検査として区民に報告する義務もないというのは勝手すぎます。特別検査を通して事業者名や事故の内容、区の対応の報告を受けて、区が安全に運営されているか知る権利があります。特に保育事故は、子育て世帯にとって非常に関心が高いものです」

「絨毯のせいにせず、きちんと議論してほしい」

 24年6月の文教委員会で、学務課長はこう説明した。

 「区としましては、お子さん、保護者の方の心情は察してはおりますが、国のホームページで確認できる全国の事例を見ましても、骨折事故については検証事例がなく、調査の対象外ではないかと考えておりまして、陳情者に対し、これまで説明し、理解を求めているところです…その調査対象になる事故かどうかという部分では、国の事例などを見ますと、報告事案を見ますと90%に近い数字が骨折事故になっておりまして、そのいずれも事例検証していないという状況になっていまして…」

 これを聞いた母親は、

 「第三者委員会の設置要件を満たしても、園と区の価値観によって『骨折だから調査しない』という姿勢として理解して良いと思います。被害者の設置要望よりも、事故の責任を取るべき園と区の価値観が優位になっています。子どもの事故で骨折の件数が多いのは想像がつきます。国に上がっている事故報告書を見ましたけど、骨折の多くが『子どもが走り出して転んだ』とか、『遊具で滑った』などで、子どもの行動の不可抗力によるものです。ずさんな安全管理の果てに重大な事故を起こした園と、監督責任のある区の価値観は、社会的に許されるものなのでしょうか」

 また、24年12月の文教委員会では、学務課長がこう答えた。

「詳細調査に移行すべき事案の例としまして、保護者の方からの要望といったものがあるというのは存じておりますけども、あくまでもこれは保護者の方が幼稚園に対して要望するものであって、現状、保護者の方が幼稚園に対してそのような設置を求めているというふうには聞いてございません」

 これについて母親は、

 「学校事故対応の指針では、基本的な事故調査と報告を保護者にしたうえで、事業者側から保護者に詳細調査の要望の有無を確認して、事故対応を進めるようになっています。しかも、自治体には事業者が指針通りに対応を進めているか確認する監督責任が課せられています。今回の事故の場合、詳細調査の要望を確認されるどころか、予見できない事故と説明され、絨毯を撤去した以上の報告は受けていません。

事実と異なる内容の事故報告書を保護者に無断で出された件も、園から謝罪はありません。区の監督責任はどうなったんでしょうか。第三者委員会は区に求めています。指針にある事故対応の進め方を踏まえても現在何のやりとりもない園には要望を伝えていないのは事実ですが、区が保護者側に問題があるような言い方をするとは怒りが収まりません

 と憤慨する。

 保護者は、陳情が区議会で継続審査となった後、大久保区長に対して、公約に基づいて対応を求める文書を提出した。「全ての世代に責任を持つ区政」、「区民生活最優先」、「クリーンで公正な区政」とあり、また、「区民と同じ目線を持つことや区民の信頼を取り戻すために、区役所でのコンプライアンスの徹底にも取り組む」とあるからだ。

「コンプライアンスという点では忠実に対応して欲しいですし、区民目線という点では、今回の事態に区民が納得いくようにして欲しいです。現在、『江東区こどもの権利に関する条例』が施行へ進んでいますが、私の子どもは事故にあった苦しみだけではなく、事故後の対応の酷さにもずっと人権を傷つけられてきたのです。区長が公約通り、対応して下さることを望みます

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