鹿児島市男子中学生の指導死裁判の判決は8月26日 亡くなる直前の、担任の大声による叱責は違法だったのかどうか

不適切な指導をきっかけにした自殺は「指導死」を呼ばれている。その指導死に関連した裁判で、有形力の行使がない場合、不適切な指導と自殺の因果関係を認めた判決はいまだにない。果たして、今回の鹿児島地裁ではどのように判断されるのか。
渋井哲也 2026.08.25
誰でも

 2018年9月、鹿児島市の中学3年生だった男子生徒A(当時15歳)が、夏休み明けの始業式当日、自宅で自殺した。母親は、担任の女性教諭Xが丁寧な聞き取りをせず、怒鳴り声をあげ、進路に関する不安をあおるなどしたことが自殺に結びついたとして、市に約6580万円の賠償を求めている。判決は8月26日、鹿児島地裁で言い渡される。その後、記者会見が開かれる。また、原告が所属する「安全な生徒指導を考える会」は29日、裁判所近くでシンポジウムを開く。

判決は8月26日、29日はシンポジウム

 判決は8月26日、鹿児島地裁で言い渡される。29日には、鹿児島地裁の近くで「安全な生徒指導を考える会」主催のシンポジウムが開かれる。原告の遺族のほか、ほかの不適切な指導をきっかけに自殺した生徒の遺族たちの話もある。また、子どもの権利の活動家で、ARC代表の平野裕二さんの講演も開かれる。平野さんは、国連子どもの権利委員会をウォッチしており、子どもの権利の国際動向にも詳しい。パネルディスカッションも開かれる。

 参加申し込みはPeatixで受け付けている。会場参加とオンライン参加がある。ただし、オンライン参加は平野さんの講演まで。会場では、パネルディスカッションのほか、来場者同士の交流会もある。

判決が言い渡される鹿児島地裁

判決が言い渡される鹿児島地裁

夏休み明けに起きた指導死。学校としても要注意日

 訴状などによると、X教諭によるAへの指導は、夏休み明けの初日に起きた。2014年度版「自殺対策白書」(内閣府作成)によると、過去40年間の日別の自殺者数を見ると、18歳以下では、夏休み明けの9月1日が最も多く、そのほか、春休みやゴールデンウィークなど、長期休暇明けの直後に自殺者が増える傾向にあった。

 Aが亡くなった18年9月3日は、この年の長期休暇明けの初日だった。文科省は16年7月と18年6月に、長期休暇明けに児童生徒の自殺者が増える傾向があることを踏まえ、児童生徒の自殺予防に取り組むよう通知を出していた。その意味では、学校として夏休み明けが要注意日であることは認識していた。

元校長は、朝の職員会議や始業式でどのような話をしたのか。証人尋問では、「毎年、市教委から警戒するよう言われている。そのため、全教職員に『心に寄り添う指導をしてください』と言った。夏休みに大きな問題があったか、理由なく休んでいる生徒はいないかなどの点で注意を促した。始業式では『2学期は行事が多い。学習にも力を入れ、自分の命を大切に』という話をした」と証言した。

 こうした状況であると、X教諭の指導が違法だった場合、Aの自殺は予見可能だったのかどうかも問われることになる。

X教諭の指導に問題はなかったのか

また、Aには、X教諭に対する嫌悪感があった。その理由の一つとして、Aが2年生だったとき、所属するバスケットボール部で指導対象となる出来事があった。このとき、X教諭は部外者であるにもかかわらず、部員に対する懲罰的な指導を行った。Aをはじめ、出来事とは関係のない生徒も含めた指導だった。顧問ではないX教諭が、部員全体に連帯責任を負わせるような指導をした。

Aの自宅にあるバスケットボール

Aの自宅にあるバスケットボール

 学校では、教室内でバスケ部の保護者会を開いていたが、廊下でX教諭は部員たちを指導した。X教諭の声は響き渡った。このときに、保護者がたまたま録音した音声データが証拠として提出された。

 Aが亡くなった後に作成された「詳細調査」の報告書では、指導が長時間にわたり、連帯責任として清掃作業を強いられたとされている。元校長は、これを「やり過ぎ」と認めた。しかし、元校長自身は生徒から聞き取りをしておらず、外部情報に基づいて判断した点を原告側に追及された。連帯責任として、事件に関与していない生徒を含めて草取りなどの奉仕作業を課したことについて、元校長は「全体で話し合って決めた」と説明した。

自殺直前、課題提出する指導に加えて、進路指導も?

 こうした前提がある中で、当日、Aのクラスでは6人が課題を提出していなかった。X教諭は6人に、教室内で課題提出に関する指導を行った。さらに、Aと別の男子生徒の2人だけが職員室に呼び出された。最初に別の生徒が呼ばれ、次にAが呼ばれ、大声で叱責された。動揺している中で、続けて進路指導に移行した。

X教諭はAを立たせたままだった。理由は「椅子がないから」。担任は椅子に座ったまま指導を行った。Aは青ざめた顔で立っていた。今回の課題提出をめぐって、そもそも課題をしていて学校に持ってくるのを忘れたのか、そもそも課題をしていなかったのかは確認していない。

「このとき大声を出したのは、夏休みに遊んでしまったという過ごし方が気になったから。学活で書いた『ワークシート』では、クラスの平均勉強時間は6時間だったが、Aは『2時間』だった。本人も『勉強をあまりしなかった』と言っていた」

その進路指導の中で、「その調子だったら内申書を書かないぞ」「やる気がないんだったら味方しないぞ」「どんなふうに育てられたの」「社会じゃ通用しないよ、社会でやっていけないよ」「提出がそんなに悪いとマイナスのことしか書かないぞ」「内申書マイナスばっかりになるぞ」「高校に行けないぞ」などと言った。Aは涙を流した。

なぜ、担任は怒鳴り声をあげたのか。

「大声で叱責することが有効かどうかは考えていなかったが、明らかに勉強に向かっていないことを自覚させるためだった。小さい声でも指導はできるが、私は真剣に向き合っている姿を見せることが大事であり、それが毅然とした指導だと思っていた。きょうの尋問に答えている声量を『1』とすると、『どうも思わないのね!』と言ったところが自分の中で一番大きく、10段階のうち『7』から『8』だった」

生徒指導提要改訂時の要望メンバーの一人

 原告を含む「安全な生徒指導を考える会」のメンバーは、文部科学省が作成した生徒指導の基本書「生徒指導提要」の改訂のとき。文科省に要望書を送ったり、直接交渉をしたりしてきた。その結果が実って、「不適切な指導」の項目が新設された。

文部科学省

文部科学省

 そして、「不適切な指導と考えられ得る例」が掲載された。以下の項目がそれだ。

・大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。

・児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。

・組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。

・殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。

・児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。

・他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。

・指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。

 さらに「教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もある」との文言も入った。原告はこうした動きに参加していた。だからこそ、この裁判は注目に値する。

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