「子どもの自殺」文科省が背景調査指針改訂案を示す パブリックコメントを募集 締め切りは11月28日
児童生徒の自殺者数が過去最多を迎える中で、文部科学省は、「子供の自殺が起きたときの背景調査指針」改訂案に関するパブリックコメントの募集を始めた。児童生徒の自殺が発生した際、学校が調査をすることになる。その方法を示すのがこの指針だ。現在の指針は14年に策定したもので、10年以上、そのままになっている。締め切りは11月28日。
改訂案のポイントは…
文科省の改訂案のポイントは、△背景調査の内容や災害共済給付、相談窓口を掲載した説明様式を作成し、遺族へ確実な説明をすること△背景調査を円滑に進めるにあたって、学校設置者や学校の基本姿勢、平時からの備えを記載△基本調査のための様式作成と詳細調査の報告書の標準的な項目を示す△遺族の、詳細調査への意向確認を行うための確認書の作成△遺族の希望があり、体制が整えば、基本調査段階からアンケート調査を実施できる△体罰や不適切指導が背景に疑われる自殺事案の場合、詳細調査では第三者委員会方式での実施を検討―など。
児童生徒の自殺の調査指針
児童生徒が自殺した場合、学校で調査がされるが、「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」で2011年3月、「子どもの自殺が起きたときの調査の指針」として初めて作られた。この指針は、マニュアルというよりは、ノウハウの蓄積を期待したものだった。自殺に関する調査について現場で実現可能と考える枠組が提示されていた。
同年6月には、初等中等教育局長通知「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について」で周知された。以降、調査委員会による背景調査がいくつかの自治体で行われた。しかし、実際の運用にあたって、調査委の中立性・公平性の確保の在り方や得られた情報の扱い方などに関して課題が見られた。
さらに、13年6月には「いじめ防止対策推進法」が成立した。9月の法施行以降は、児童生徒の自殺で、いじめによる疑いがある場合は、調査等が義務付けられた。それを踏まえ、「協力者会議」では指針の見直しを行った。それが「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」(改訂版)だ。これに基づいて学校や学校設置者が調査をしてきた。
指針改訂までの流れ
その後も、「改訂版」による調査による課題の蓄積だけでなく、児童生徒の自殺が増加し、24年には過去最多になった。こども基本法(22年6月)やこども大綱(23年12月)の成立、生徒指導提要の改訂(22年12月)、不適切な指導をきっかけに自殺した児童生徒の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」の指針改定の要望(23年10月)もあった。
文科省では「問題行動・不登校調査」で22年度調査から指針に基づく調査の実施状況を把握した。また、24年度から指針の改訂議論が本格化した。25年7月、前出の「安全な生徒指導を考える会」と、いじめや指導死などの問題に取り組む「一般社団法人ここから未来」のヒアリングを実施した。その上で再度、「協力者会議」の議論を踏まえた上で、パブリックコメントの実施となった。
論点は何か…未遂は対象外?アンケート実施はいつ?
この指針案について、いくつかの論点があるが、ここでは三つあげてみる。
一つは自殺未遂のケースは対象にならない点だ。「協力者会議」では、全体としては未遂者のケースを対象にしないというものだった。いじめが疑われる自殺未遂の場合、「いじめ防対法」による「重大事態」になり、調査対象だ。しかし、いじめの疑い以外は対象にならない。この差については、合理的な説明がつくのか。体罰や不適切指導が背景にあると疑われる場合でさえ、調査がされないことになる。この点は検討事項になってもよいのではないか。
二つ目は、基本調査段階のアンケートの実施の点だ。この点は遺族のヒアリングでも話題になった点だ。児童生徒が自殺した場合、基本調査が行われる。問題行動調査によると、学校に報告された自殺案件はすべて基本調査されている。指針案では、遺族の希望があり、調査体制や心のケア体制が整っていれば、という条件がある。
これでは“体制が整ってない”ことを理由に回避される可能性を残してしまう。時間が経つと、記憶が汚染される可能性が高くなる。他の情報(真偽に関係なく)に接し、自らが見聞きした情報なのか、他人から聞いた情報なのかわからなくなることがある。それを避けるためには早期の実施が必要なのではないか。
三つ目は、情報の提供について。基本調査を文科省と共有し、こども家庭庁には文科省から提供すること、としている。しかし、基本調査は、早期段階で得られた情報を学校や学校側の視点で集めたものにすぎない。基本調査段階ではいじめや体罰・不適切指導があがらない場合も多く、基本調査というのは不完全な内容というのが前提だ。
しかも、基本調査段階で、遺族がもたらした情報が反映されていないこともあると聞く。早い段階での調査という意味では必要性のあるものだが、これを「公式見解」とされるのは疑義がある。この情報を前提に、こどもの自殺対策のデータとして活用されるとなると、十分ではない分析がされて、こどもの自殺対策が作られることになる。
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