被害者への謝罪はなし。広陵高校が2回戦以降、出場辞退。校長が明らかにする

 硬式野球部内で上級生から下級生への暴行事件があった広陵高校。SNSで話題が拡がり、寮の爆破予告などがあったことなどから、出場を辞退する決定をした。
渋井哲也 2025.08.12
誰でも

 第107回全国高等学校野球選手権大会に出場した広島県代表の広陵高校(広島市)は、2回戦以降の出場を辞退した。8月10日、堀正和校長が明らかにした。理由としては、「大会運営に大きな支障をきたしている。生徒、教職員、地域の方の人名を守ることが最優先」とした。しかし、これまでに暴行事件の被害者で転校をした生徒に対する謝罪はない。

被害者への謝罪はなし

 堀校長によると、9日夜、学校法人の理事会が全会一致で出場辞退を決めた。監督も理事の一人だった、部員たちには同日中に伝えられた。堀校長は広島県高野連の副会長だったが、辞任を申し入れた。

「昨日、運営母体である学校法人の理事会を臨時に開催し、2回戦以降の出場辞退を決定しました。過去に日本高校野球連盟に報告した、部員間の暴力を伴う不適切な行為だけではなく、監督やコーチから暴力や暴言を受けたとする複数の情報がSNSなどで取り上げられました。各方面の皆様に多大なご迷惑、ご心配をおかけしましたこと、深くおわび申し上げます。誠に申し訳ない」(校長、10日の会見で)

 校長は、大会運営に支障があることを理由に辞退を決めたと話した。しかし、事件の被害者への謝罪などはなかった。もし、被害者への謝罪があったのなら、印象も変わったかもしれない。

 今年1月に発生した寮での暴行事件があったが、その内容は保護者と思われるSNSのアカウントの投稿によって明るみになった。経緯が詳細に書かれている。

 抽選会直前にも、詳細を記述したSNSとは別のSNSで「息子が広陵高校の寮内にて上級生から集団暴行を受けました。抽選会は今日の14時。高校側はSNSのコメントも封鎖し、何もなかったかのように抽選しようとしています。なんとか阻止できないでしょうか」(8月3日)と投稿していた。

 何があったのか。投稿によると、1月23日早朝。被害生徒(当時1年生)が寮からいなくなった。コーチから保護者への電話で分かった。「寮内でカップラーメンを食べているのを2年生が見つけ、厳しく指導した」という内容だった。

 被害生徒はその後、帰宅し、保護者に説明した。「正座をさせられて10人以上に囲まれ、死ぬほど蹴ってきた。顔も殴ってきたし、死ぬかと思った」などと話した。保護者は、被害生徒の話を聞きながらメモをした。保護者はコーチに連絡し、確認を取ると、「ほぼメモでいただいた内容と合っています」と話した、という。

 その後、被害生徒と監督と面談したが、監督にカップラーメンの件について叱責された。「お前嘘つくなよ」などとも言われた。さらに、「2年生の対外試合がなくなってもいいんか?」とも言われた。1月29日、再び、被害生徒は寮を脱走。「川に飛び込んでみようかな」とも考えるほどだった。

高校としては処分もしていたが…

 この暴行事件については学校内の調査があり、県高野連に報告。日本高野連にも伝わった。

 広陵高校としては県高野連にも報告し、日本学生野球憲章違反として、厳重注意処分となった。加害生徒に対して、対外試合出場停止1ヶ月という処分もした。公表基準のガイドラインによると、厳重注意処分の場合は、原則非公開となっている。

「学校が調査し、行為が判明した時点で学校として謹慎処分をしました。高野連に報告した際に、学校に対する厳重注意処分がされました。加害生徒に対しては、対外試合出場停止1ヶ月という処分でした。学校としても謹慎処分をし、登校禁止にしました」(広陵高校事務局長、5日の電話取材)

 こうした認識があったためか、会見でも校長が「過去に日本高校野球連盟に報告した、部員間の暴力を伴う不適切な行為」と発言するなど、「過去」の出来事になっていたのだろう。

 この事件は、部活内の上級生(2年)から下級生(1年)への暴行だ。この場合、いじめ防止対策推進法上の「いじめ」の定義に当てはまる。しかし、学校としては「いじめ」と認定していない。被害者が転校をした時点で、「いじめ重大事態」の疑いとなる。法律上は県知事に報告をしなければならない。広陵高校は報告をしていない。広島県の場合は学事課が私学の窓口になっている。

「今回は暴力事件です。これもあってはならないのですが、今回は、指導に伴う単発の暴力です。学校としてはいじめ、ないしは、いじめ重大事態として捉えていません。いじめではなく、指導の途中で手が出た暴力事件です」(同)

新たにSNSに投稿された事件とは

 また、大会開幕後に別の事案の情報も広がった。監督やコーチ、一部の部員からから暴力や暴言を受けたとの情報がSNSで投稿されている。「私の息子が経験した事実」「子供の気持ちを考えて公表いたします」として、性被害について書かれている。警察に被害届も出している。実名と思われる名前も載っている。この件に対しては、元部員の保護者からの求めに応じて6月に第三者委員会を設置し、調査を進めている。月末にも会議が開かれる予定になっている。

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