「なぜ学校や先生は、説明や謝罪さえもしなくていいの」鹿児島市・指導死訴訟 判決は8月

2018年9月に起きた鹿児島市の男子中学生の自殺。担任の女性教師の不適切指導が原因ではないか。そうした思いを元に、母親らは鹿児島市を相手に損害賠償請求を求めた。判決は8月26日に行われる。
渋井哲也 2026.06.01
誰でも

 2018年9月、鹿児島市の中学3年生だった男子生徒A(当時15歳)が夏休みの明けの始業式当日、自宅で自殺した。母親は、担任の女性教諭Xが、丁寧な聞き取りをせず、怒鳴り声をあげ、かつ、進路に関する不安をあおるなどしたことが自殺に結びついたなどとして、市を相手に、約6580万円の賠償を求めている。5月に結審を迎えたが、その際に母親が意見陳述をした。地裁で母親が意見を言う最後の機会になった。判決は8月26日に言い渡される。その後、記者会見をする。また、29日には裁判所近くでシンポジウムが予定されている。

 原告の母親らと被告の鹿児島市の主張は出尽くし、終結した。裁判所から和解の提案もあったが、双方の意見は一致しなかった。裁判で出尽くした論点を取り上げてみ。この裁判の論点はさまざまある。後半には、母親の意見陳述の内容を伝える。

鹿児島地裁(撮影:渋井哲也)

鹿児島地裁(撮影:渋井哲也)

自殺が多い夏休み明けの指導だった

  一つは、X教諭によるAへの指導は、夏休み明けの初日に起きた。2014年度版「自殺対策白書」(内閣府作成)によると、過去40年間で日別の自殺者数を見ると、18歳以下の場合、夏休み明けの9月1日が最も多く、そのほか、春休みやゴールデンウィークなど、長期休暇明けの直後に自殺者が増える傾向にあった。

 Aが亡くなった2018年9月3日は、この年の長期休暇明けの初日だった。文科省は2016年7月と18年6月に、長期休暇明けに、児童生徒の自殺者が増える傾向があること、長期休暇明けの児童生徒の自殺予防を取り組む通知を出した。長期休暇明けは、自殺のリスクがあることは知られていた。そのため、注意すべきタイミングだった。

過去の担任の不適切な指導が影響したか

 また、Aの、X教諭に対する嫌悪感があったことだ。その一つの理由としてはAが2年生だったとき、所属するバスケットボール部で指導対象になる出来事がある。このとき、なぜかX教諭が部外者であるのに、部員に対する懲罰である指導を行った。Aをはじめ、出来事とは関係の無い生徒も含めた指導だった。

 顧問ではないX教諭がなぜか、部員全体の連帯責任的な指導をした。学校では、教室内でバスケ部の保護者会を開いていたが、廊下でX教諭は部員たちを指導した。X教諭の声は響き渡った。このときに、保護者がたまたま録音した音声データが証拠提出された。

 こうしたX教諭の行き過ぎた指導を校長は知っていた。X教諭が大声で指導すること、指導の際に机や椅子を蹴ること、プリンターを壊したことを認識していたのだ。PTA副会長である保護者からX教諭の指導の問題性を複数回指摘されたこともあった。

課題提出に指導が、なぜか進路指導に

 こうした前提があった上で、当日、Aのクラスでは6人が課題を出していなかった。その6人が教室内で課題提出に関する指導を行った。そして、Aと別の男子生徒と2人だけが、X教諭によって職員室に呼び出しを受ける。最初に別の生徒が呼ばれ、次にAが呼ばれ、大声で叱責をされた。動揺している中で、続けて進路指導に移行した。

自宅の仏壇に置かれているバスケットボール(撮影:渋井哲也)

自宅の仏壇に置かれているバスケットボール(撮影:渋井哲也)

 その進路指導の中で、「その調子だったら内申書を書かないぞ」「やる気がないんだったら味方しないぞ」「どんなふうに育てられたの」「社会じゃ通用しないよ、社会でやっていけないよ」「提出がそんなに悪いとマイナスのことしか書かないぞ」「内申書マイナスばっかりになるぞ」「高校に行けないぞ」などと言った。Aは涙を流した。

その日のうちに提出しないといけない

 さらに、その日に締め切りだった課題提出をAは忘れていた。その前に締め切りになっている課題はすべて提出している。なぜ、この日締め切りの課題を忘れたのか。Aは課題をしていないのか、していたが持ってくるのを忘れたのか。X教諭は十分な聞き取りをしてない。

 この日に提出するはずだった課題の中には、数学のプリントがあった。Aは「紛失した」と述べていた。ならば、数学の担当教諭に再配布をしてもらうことになる。しかし、数学担当教諭は、この日休みだった。プリントをなくし、担当教諭も休み。Aは課題をしていても、していなくても焦っていたのではないか。しかもX教諭はその日のうちに提出することを指導したため、Aは、この日のうちに提出することは不可能と思ったのではないか。

指導死の注意喚起として通知は出ていた

 これまで、生徒指導をきっかけにした自殺(指導死)が起きている。裁判となると、その生徒指導が不法行為であり、その結果である自殺の因果関係が示されて、賠償責任が生ることになる。その前提として、不適切な指導後に自殺が起きる可能性について知られているかどうかも大きく、賠償責任の前提となる、予見可能性にかかわるものだ。

「指導死」は2012年段階で指摘され始めた。2015年11月には鹿児島県内での奄美市立中学の1年の男子生徒が自殺している。2017年3月に、福井県池田町立池田中学校で2年生の男子生徒が自殺していた。文科省は池田中学校の事件を受け、同年10月、「池田中における自殺事案を踏まえた生徒指導上の留意事項について(通知)」を作成した。

 この中では、「児童生徒の特性や発達の段階を十分に考慮することなく、いたずらに注意や叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感の高まり、自信や意欲の喪失、自己評価、自尊感情の低下を招き、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながりかねない」と指摘された。

母親による意見陳述

 こうした論点を双方が出し尽くした上で、母親は意見陳述を行った。以下はその内容である。

 私の大切な息子は、2003年8月16日、夏に三男として産まれました。とてもかわいくて、とても穏やかな子でした。小さいころから外で遊ぶことが大好きで、活発な子でした。小動物を育てたり、兄たちが採ってきたさつまいもでスイートポテトを作ったり、洗濯物を干してくれたり、優しい子でした。釣りが大好きで、釣ってきた魚を自分で捌き食べさせてくれました。全てが過去形で、もう思い出が増える事はありません。私が見上げるほどの身長175cmの頼もしい体格に育ち、将来が楽しみで今年は23歳。大人になった息子に会いたかったです。

職員室での執拗な叱責と追い込み

 2018年9月3日、息子は夏休み明けの始業式の日に未提出の宿題があった事で担任から集団指導、更に職員室に呼ばれ個別指導を受け、職員室で大声で怒鳴られ、すべての提出物を当日中に出すよう、生徒の学力向上の為にではなく、単に袋小路に追い詰められ、提出を強要されました。校舎中に響き渡る怒鳴り声は日常茶飯事で、進路業務をしないぞ!と脅迫めいた叱責も当たり前のように普段から行われていました。

ある漁港付近でAさんが釣りをしていたと思われる(撮影:渋井哲也)

ある漁港付近でAさんが釣りをしていたと思われる(撮影:渋井哲也)

 怒鳴られた後、進路の話を切り出された息子は、「もういくら頑張っても高校に行けない」と考え、頭の中が真っ白になり、肩を震わせ泣きながら職員室を出て、視野狭窄に陥った状態で自宅に帰り、自死しました。教員である前に、人として、一人の大人として、肩が震える程泣かせ、職員室にいた大人も見て見ぬふりをし、帰らせたことは安全配慮に欠けていたと思います。

X教諭の被害者意識と、尋常ではない取り乱し方

 進路業務をしない事をにおわせ脅す叱責は、未来ある児童の財産を害していると思います。誰か1人でも気にかけて声をかけてくれていたら、結果は違っていたかもしれません。誰も心配しないことが異常です。息子にみくびられていると被害者意識をもっていたX教諭は、このタイミングで息子を懲らしめ、ただ怒鳴りたいから怒鳴り、痛めつけるチャンスと考えたに違いありません。

 午後6時ごろ、変わり果てた息子を発見した時、X教諭もおり、「ごめんなさい!」「みんな一緒だったんです」と叫んでいました。X教諭がなぜ尋常じゃない取り乱し方をしていたのか私には分かりません。ただただ奇妙な感じがしました。X教諭は証人尋問の時、「宿題は友達のものを写してくると思った。」と述べました。泣かせた上、死に追いやったのに、プライドある宿題指導だと思ったのに、くだらない、中身のない、強制提出を求めただけだったと分かり、残念でなりませんでした。

心理的圧迫がもたらす「指導死」の構図

 教育評論家、武田さち子氏によると、「指導死」における指導から自殺までの時間は、非常に短く、直後から数日以内が多いという特徴があるとされています。背景としては 恐怖、羞恥心、逃げ場がないと感じる状況が、時間をおかずに死へ追いやる要因となっていることが指摘されています。 自殺の衝動が極めて短い時間で高まるため、事後の対応が遅れる、あるいは教員が「まさか死ぬとは思わなかった」として責任を回避しようとする構図が指摘されています。

 こども基本法に基づいた「こども大綱」では、不適切な指導を「こどもの権利侵害」と位置づけ、学校や家庭内での体罰・不適切指導、いじめ、暴力などを許さない方針が明記されています。従って、不適切な指導は、こどもの権利条約の原則(生命・生存・開発の権利、最善の利益など)に反する重大な人権侵害とみなされます。

 文部科学省が作成した『生徒指導提要』では、児童生徒の尊厳を傷つけ、自死や不登校の引き金となり得る「不適切な指導」について、感情的な叱責、威圧的な言動、事実確認なき思い込み、組織対応を欠いた独断などを挙げています。人格否定や無視など、教員による暴言・威圧的行為は厳に慎むべきとされています。以下、『生徒指導提要』を抜粋します。

感情的・威圧的な言動

・大声で怒鳴る、机を叩く、物を投げるなど、恐怖心を与える指導。

・教員の意に沿わない児童生徒に対し、無視や冷淡な態度をとる。人格や尊厳の否定

・「お前はダメな人間だ」「人間のくずだ」「出ていけ」といった暴言。

・「お前」や呼び捨てなど、不適切な言葉遣い。事実確認なき一方的な決めつけ

・言い分を聞かずに一方的に叱責し、思い込みで懲戒する。

・クラスメートの前で特定生徒を叱責し、見せしめのような恥をかかせる。

独断的な対応

・学校組織として方針を共有せず教師個人が独自の判断で過度な指導を行う。

健康への配慮不足

・長時間立たせ、極度のプレッシャー、心理的な圧迫感を感じさせる指導。

予見されていた悲劇と、学校・教育委員会の放置

 X教諭はこの「不適切指導例」をすべて行い、すべて該当しています。怖くないでしょうか?私はこれを書きながら怖い、こんな学校嫌だ、と純粋に思いました。私たち保護者、少なくともバスケ部の保護者は、いつかX教諭の理不尽な叱責により「指導死」は起こるのではないかと予見していました。息子が亡くなったとき、「やっぱり起こってしまった」という意見が多かったのも事実です。

 (Aが通っていた)中学校では、体罰もおこなわれていましたが、市教委はなんらかの対策をとったのでしょうか?X 教諭の不適切な指導の被害にあっていた生徒の保護者が学校に相談した時も、管理職の先生方は「熱血だから」と言い、変わることなく不適切指導は続けられていました。息子は、日ごろからの怒鳴り声や数々の不適切な指導を見聞きし、積み重ねの苦痛を受けており、救える命だったのに、学校が不適切指導を認めていた、もしくは放置していたから起きた「指導死」だったと思います。

 鹿児島市教育委員会は、息子が不適切指導により命を落としたという事実に向き合っていただきたいです。また、パワハラ、モラハラ等は刑事罰に該当する場合があります。保護者による児童虐待では言葉による脅し等も逮捕されます。なぜ学校や先生は、説明や謝罪さえもしなくていいのでしょうか。指導と位置づけがちですが、パワハラ、モラハラであり、言葉による虐待に等しいのではないでしょうか。

 国、自治体、教育行政は起こってしまった1件、指導死で亡くなった命と向き合い、「正面から対処する」ことが大切で、再発防止にもつながるという発想をもっていただきたいです。ごまかしたり、隠蔽したり、無かったことにしないででいただきたいです。

鹿児島市役所(撮影:渋井哲也)

鹿児島市役所(撮影:渋井哲也)

 裁判長が尋問にて「生徒は怖くなって相談しづらくなり、追い詰められたという認識はないか」とX教諭に質問してくださいました。それは正しく生徒の気持ちだと思いました。数学の教科担任が休んでいて、提出不可能なプリントについても「後で相談に来ると思った」とX教諭は述べていますが、X教諭は、息子にみくびられ、嫌われている、と被害者意識を持っているのに、「相談に来る」と思っていたとはとても考えにくいです。息子は「相談したくても怖いし、相談したとしてもまた自分で考えろ!と言われ、突き返されるだろう」という気持ちでいたでしょう。

未来へつなぐ司法の判断と不適切指導の根絶への願い

 甲3号証の音声のような怒鳴り声が相手では私でも相談できないと思います。指導は失敗や成功を繰り返して成長している最中の生徒をよりよい未来に導くものであるはずです。息子の前にも沢山の犠牲があり、子ども大綱や生徒指導提要等、今変わってきています。そのことを重く受け止めて裁判所に判断していただきたいです。どうか不適切指導をなくしてください。不適切指導によって苦しむ子どもが

 いなくなることを願っています。

 私にもかわいい孫ができました。息子夫婦は赤ちゃんを笑わせようと必死です。この世に生まれ、自分の足で第一歩を歩いた時は感動で家族は笑顔であふれていました。思えばこうして我が子も大切に育ててきました。あの先生じゃなければ、正しい指導であれば、息子は生きていました。不適切な指導で命をおとすなんてあってはならないと思います。

 以上

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